Stackin' Higher

ウォーゲーム成分入り雑記

Some War Games - 1952年のウォーゲーム

 ポリンキーの三角形の秘密はいまだに教えてもらえていないんだけれど、ウォーゲームの六角形の秘密はわりと早いうちに――まだ1つもゲームを持っておらず、お金はないが時間はあるから grognard.com で公開されている GDW の Battle for Moscow(Grognard.com: The Battle for Moscow Board Game)を Print and Play していたころ――僕の知るところとなった。つまり、「平面を敷き詰められる正多角形の中でもっとも角の多いのが正六角形である」とか「どの方向にコマを動かしても移動距離を一定にできる」とか。
 そういう素養にいまいち欠けているので思いも寄らなかったんだけど、正方形に区切られた世界ではタテ・ヨコの動きとナナメの動きとで進める距離が違っていて、後者の方が√2倍長い。だから将棋の角って実は飛車や香車より速いのだ。ウォーゲーム風に飛車と香車の Movement Allowance を8とすると、角のそれは8√2 ≒ 11.312となる。これはまずい。香車はともかく、我々級位者が王よりかわいがってやまない飛車が角より鈍足だなんて。
 平面を充填できる正多角形は正三角形・正四角形・正六角形の3種類のみであるということは紀元前にピュタゴラスさんが証明したらしい。でもチャトランガ由来のアブストラクトな「ウォーゲーム」はみなスクエアマップで(チャンギシャンチーはポイント・トゥ・ポイント?)、当時のデザイナーが前述のシミュレーション上の問題を意識していたのかどうかは分からないけれど、ぼくらのウォーゲームに初めてヘクスマップが導入されたのは Avalon Hill の1961年版 Gettysburg ということになっている、と思う。それから遡ること9年、1952年に、「ナッシュ均衡」や『ビューティフル・マインド』の John F. Nash と R. M. Thrall がランド研究所内でこんな文書を発表していたんだそうです:

Some War Games | RAND

 p.3 をご覧ください。ヘクスマップです。ああ、落ち着く……どんなに気分が荒んでいたり沈み込んでいたりしても、とりあえずこれを見せておけばたいていのウォーゲーマーはたちまち元気を取り戻すので、おためしあれ(「大丈夫? ヘクスマップ見る?」)。
 p.2 の Summary を読むと、このヘクスマップ――文書中では "hexagonal-honeycomb-pattern board" と表現されている――にはさらに元ネタがあり、A. Mood という人の提案によるという。本文最初のセンテンスに Kriegsspiel の一語が出てくるけれど、ナッシュは同僚たちとクリークシュピールはじめいろんなゲームに明け暮れていたそうで、この文書で提案される2つのウォーゲーム――Ground War Game(John F. Nash)、Air War Game(R. M. Thrall) もその中で生まれたんじゃないかと思う。うらやましい職場だ。

 Air War Game は Ground War Game のちょっとした変形であるので Ground の方を取り上げる。
 特定の戦争をシミュレートするものではなくて、抽象的な架空戦。プロ向けっぽく審判付きで両陣営の情報を探り合いながらプレイするウォーゲームのようだけれど、末尾の選択ルールで、ボード1枚で遊んだり衝立を使ってダブルブラインドで遊んだりしてもいいねと紹介されている。
 コマは Man、Truck、City の3種類。1ターンに1ヘクスしか動けない Man を3ヘクスまで輸送できる Truck が A. Mood のゲームから追加された要素らしい。その Truck と City は敵のものを奪うことができる。細かい勝利条件は審判の裁量だが、敵の Man をすべて除去、City をすべて奪ったら勝ち。
 ターンシーケンスは下記のとおり:
 1.移動
 2.索敵
 3.戦闘
 4.審判による戦闘結果の適用(Man の除去)
 5.生産(5ターンごとに Man を1つ、各 City に配置)
 移動はいわゆるプロット式で、Man は敵の存在するヘクスにも進入可能、Truck は敵に隣接したらストップ。戦闘処理にランダム要素はなく、参加する彼我の Man 数によって損害が一意に決まる。戦闘結果表は p.7 に。スタック制限は3であるので、6 Man あれば必ず1ヘクスを空けられる計算になる。
 おもしろく感じたのがルールにあらわれる各種用語の、今日のデファクト・スタンダードなウォーゲーム用語との違いで、上ではターンシーケンスと書いたけれど "cycle of stages" だとか、ヘクスでなく "square" としているとか、スタックは "pile" と呼んでいるなど。
 辞書を引くと stack も pile もほとんど同じ意味なんだけれど、stack はきっちり積まれているもの、pile はちょっと雑に積まれているもの、というニュアンスの違いがあるらしい。たしかにデッドスタックとかディスカードスタックとは言わない。小さなへクスに小さな厚紙のコマを崩さぬようはみ出さぬよう慎重に重ねるのを見て、スタックと呼ぶようになったのかもしれない。

 ……と、手順前後なんですが、ここまで書いてから Wikipedia のチャールズ・ロバーツの項を読んで、彼はランド研究所がヘクスマップを使っているのを見て自作に取り入れたのだと知りました。なるほどです。