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ウォーゲーム成分入り雑記

Cataclysm | 東海作戦研究会 (2020/10/17)

 先月も東海作戦研究会の土曜例会におじゃました、遠方からお越しになるAMIさんとYENさんとが同会の掲示板で当日プレイするゲームについてすり合わせておられて、しばらくのあいだ「あと1人参加者がいればキャンペーン、そうでなければシナリオを」という状況にあったのだけれど、そのタイトルにふっと触れてみたくなり首をつっこんだ、それというのも GMT Games が2018年に世に放った WW2 戦略級マルチ Cataclysm である、僕はふだん WW2 の戦略級をあんまりプレイしなくて、そこにカテゴライズされるだろう手持ちの作品もウォーゲームをはじめたばかりのころに買ったヒトラー帝国の興亡だけ、というにわかっぷりで、けれどもこの Cataclysm は Web 上の記事を読んだりして発売当時からちょっと気になっていたのだった。
 そういう『ちょっとの気になり』──そのゲームをみずから進んで買ったり遊んだりしてみるほどではなかった規模の『気になり』が満たされる、あるいはもっと大きな『気になり』へ育つというのがウォーゲーマーとウォーゲーマーとが集う場所のあることの僕の幸福の一面だ。僕は根っからのインドア野郎で、生命維持に必要な活動を除き一歩もお外に出ない暮らしをいくらでもつづけられる自信があるけど、非言語コミュニケーションのライブ感が恋しくなるときもあって、とかく人の集まるというのにどうしても諸々の気配りや想定がつきまとう昨今にあってなおこういう場の存続にエネルギーを割いてくださっている方々には頭があがらない。
 ところで Cataclysm である。
 ゲームの概要については、下記のAMIさんの紹介記事に詳しいのでご覧ください:

solger.sblo.jp

 ランダムピックでAMIさんが全体主義陣営(ドイツ、イタリア、日本)、YENさんが共産主義陣営(ソ連)、僕が民主主義陣営(イギリス、フランス、アメリカ)という担当割り当てとなった、粛々とセットアップを進めつつ他のウォーゲームではあんまり目にしない図表類や用語の頻出にわくわくする、と同時にルールブックは当日までに一読したけどそれぞれの要素がどんなふうに絡み、機能するのか想像つかず不安がよぎる(おふたりとも僕にルール上の疑問があればこころよく答えてくださったり一緒にルールブックをあたってくださるのでそういう意味での不安はなかった)。

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 キャンペーンは1933年からはじまる。大戦の火種はすでにそこかしこにあるものの未だ各国かろうじて正気を保っている、けれどもこれが戦争にまつわるゲームであるからには遅かれ早かれ生起する軍事的衝突に備えなくてはいけない……というよりも、そうすること以外の選択肢が、なんにもしないのを除き、もとよりプレイヤーには与えられていない──すなわち僕らが勝利得点を稼ごうとするかぎり cataclysm は確実に世界を席捲する。せつない。

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 国内外へ政治的な働きかけを行うには Flag と呼ばれるリソースを消費する必要がある、ここで「政治的な働きかけ」とはたとえば他国との同盟や宣戦布告による開戦、中小国の支配、自国の Commitment[戦時体制の度合い]を Total War に向けて一段階ずつ上昇させていったり、そうして損なった Stability[政府の安定度]を回復させたりといったアクションを指す、つまりいずれはじまってしまう戦争に備えるにしろ、ついにはじまってしまった戦争を遂行するにしろ、この Flag がなければ話にならない。
 基本的に Flag は1ターンにつき1枚、各勢力へ与えられるが、もちろんこれだけではやりたいことの多さに対してぜんぜん不足で、戦備を推し進める期間においては Provocation[刺激]と呼ばれる現象が主たる Flag 源となる。この Provocation は自分で自分に発生させることはできず、おおむね下記のようなアクションによって敵対勢力を provoke したり敵対勢力に provoke されたりする:

  • 同盟
  • 宣戦布告
  • Commitment の上昇
  • 他国の内戦に対する援助
  • 特定の作戦行動
  • 戦略的奇襲
  • 他国の支配獲得

 きっとお気づきのことと思うけれど、前述の Flag を費やして実行するアクションのほとんどは敵対勢力へ Flag をもたらすのである。また、獲得した Flag はそのターン中に使用できるから、Flag を使っては Flag を与え Flag を使われては Flag を受け取る、という見るからにヤバいやりとりが──いずれかの勢力がどこかで手打ちにしなければ──延々とくりかえされる可能性がある、なんとも地獄なシステムとなっていて、これがとても愚かしくてすばらしい。「軍拡やめてください」「そっちが先に動いたんでしょう」「同盟結んだだけです」「それが脅威なんですよ……あっ、ほら、またウチのシマにちょっかいかけて」──そうこうしているうちにみんな引くに引けなくなってしまい、正気と狂気の境があいまいになって、人類がずるずると二度目の世界大戦へのめり込んでいくという、第1ターンによーいドンでおっぱじめるタイプのゲームにはない平時から戦時のあいだのグラデーションを愉しめる。

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 極細の択をダイスでごり押し、早期に英仏同盟をなしたことによって、両国は着実に戦時体制を整えていく、ただフランスの Commitment を Home Front 判定にマイナス修整を与える Mobilization まで高めたのは失敗だったかもしれない、Effectiveness が最低値の1であることも手伝って、以降、国内の反乱因子にずいぶん手を焼くことになってしまった(ひとたび Commitment を高めるともはや後戻りはできず、総力戦に向かってエスカレートするのみである)。
 ポーランド戦を順当に済ませたドイツは、1941年、奇襲攻撃によって対仏開戦、要塞化されたパリはかわして3つの領地を次々と手中におさめ白旗を上げさせようとする。しかし、フランスの降伏は既定路線であって今後どうして反撃しようか考えながら振った Effectiveness チェック(成功率 1/6)をなんと3回連続でパス、パリ以外の国土をすべて失ってもフランス人はめげなかった。チットのアヤによりドイツがフィニッシュブローを放つ前に増援が到着するという幸運にもめぐまれて、対独戦を乗り切ることに成功したのだった。フランスはのちにもう一度ドイツ軍の猛攻にさらされたが、またしてもサイコロに助けられ土俵際を割らなかった。

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 こう書くと盤面は共産主義と民主主義の覇権争いになっていたようだけれど、実のところ最終盤の1945年まで勝利得点は全体主義がリードしていた、中国に及ぼす日本の影響力の高さや、アメリカがその重い腰を最後まで上げずレンドリースや Flag の供給という裏方に回りつづけていた(僕の手に余ったともいう)ことが要因だ。ゲーム終了が近づき、慌てて、これまで目を向けていなかったポルトガルにつばをつけたり奪われたフランス本土を取り返したりしたあと、いよいよ Ruhr へ踏み込んだ。それに呼応してソ連軍が Silesia を占領すると、ダイス運に見放されてしまったドイツが即座に降伏し、一帯が勝利得点源となった。
 これまで協調路線にあった民主主義陣営と共産主義陣営とは、こうして共通の敵をなくし、直接戦火を交えこそしないが状況はさながらレース・トゥ・ベルリン、戦後の発言権の大小を賭けて焼けただれたパイの奪い合いだ。はたしてチット引きに勝ったソ連は、けれども、ベルリンを守る民兵の意地の抵抗に遭い弾き返される。結局、同都市はどちらの手にも落ちないまま、タイブレークルールで共産主義陣営の勝利となったのだった。

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 発売当時に感じた『気になり』は的中していた。
 戦前から終戦までダイナミックに WW2 を描きながら、プレイヤー全員はじめてのゲームでもキャンペーンを終わらせられるハイ・プレイアビリティ、本文には載せられなかったけれど、どれだけ戦力を集めてもやってみるまで分からない戦闘システムや、各国の行動含めあらゆる出来事を引き起こすチットがひとつのどんぶりにまとめて盛られることによるプランニングの寄る辺なさ、そして史実にコントロールされずいろんなことを試せる自由度の高さ(じっさい、今回のゲームでは日米が戦うことはなかった)がよかった。おなじメンツで再戦しようという話がすぐに持ち上がり、まだちょっと先になりそうだけれど、たのしみにしている。

対戦相手 AMIさんのAAR:
solger.sblo.jp